1 労働条件の明示
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して、賃金、労働時間その他一定の労働条件を明示しなければなりません(労基法15条1項)。
現在、明示すべき事項(労基則5条)は、次のとおりです。①から⑥(昇給は除く)については、書面を交付して明示しなければなりません。⑦から⑭については、使用者がこれに関する定めを設ける場合は、明示する必要があります。
①労働契約の期間
②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
③就業の場所及び従事すべき業務
④始業及び終業の時刻、休憩時間、休日等
⑤賃金、昇給
⑥退職
⑦退職手当
⑧臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与及び最低賃金額等
⑨労働者に負担させるべき食費、作業用品その他
⑩安全及び衛生
⑪職業訓練
⑫災害補償及び業務外の傷病扶助
⑬表彰及び制裁
⑭休職
2 新しく追加される明示事項
労基則5条の改正により、令和6年4月から、明示を要する事項が追加されました。
(1)全労働者を対象とするもの
①全ての労働契約の締結と有期労働契約の更新のタイミングごとに、雇い入れ直後の就業場所・業務の内容に加え、これらの「変更の範囲」についても明示が必要となります。「変更の範囲」とは、将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲を指します。
(2)有期契約労働者を対象とするもの
①有期労働契約の締結と契約更新のタイミングごとに、更新上限(有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容の明示が必要となります。
②無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)の明示が必要となります。
※無期転換ルールとは、同一の使用者との間で有期労働契約が5年を超えて更新された場合、有期契約労働者(契約社員、アルバイト)からの申し込みにより、無期労働契約に転換されるルールのことをいいます。有期契約労働者が使用者に対して無期転換の申し込みをした場合、無期労働契約が成立します(労働契約法18条)。
③無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件の明示が必要になります。
3 明示義務違反の罰則
労働条件の明示義務違反があった場合、当該違法行為をしたもの及び事業主は30万円以下の罰金を科せられます(労基法120条1号、121条)。
労働条件通知書や就業規則の記載についてご確認いただき、ご不明な点があればお問い合わせください。
弁護士 川西里奈