1 フリーランス・事業者間取引適正化等法の概要・立法の経緯
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)は、令和5年4月28日に可決成立し、同法は令和6年11月1日に施行されます。同法は、従業員を使用せず一人の「個人」(いわゆる一人法人を含む。)として業務委託を受ける特定受託事業者(受託側であるいわゆるフリーランス)と、従業員を使用し、「組織」として業務委託をする特定業務委託事業者(委託側法人等)との間の業務委託に係る取引に適用されます。ここ数年、いわゆるフリーランスに関する実態調査などにおいて、フリーランスに対する報酬未払いや、支払い遅延、条件不明瞭な発注がされていたことなどを考慮し、フリーランスの適正な勤労環境を図るべく、同法が制定され、今後施行されるに至ったものです。
2 留意点
(1)下請法に定めるものと類似の義務及び禁止行為
フリーランス(業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないもの、すなわち、個人事業主・一人法人)に対し、従業員を使用し、「組織」として業務委託をする法人等においては、概ね下請法同様の義務が課され、また、特定の行為が禁止されます。
具体的には、委託する法人等は、フリーランスの給付(委託する業務)の内容、報酬の額等を書面又は電磁的方法により明示することが必要とされ、また、フリーランスの給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し、支払わなければなりません。(この点は、委託する側が再委託をする場合には、委託する側が発注元から支払いを受ける期日から30日以内とされる点に、留意が必要です。)また、禁止される行為は、①受領拒否、②報酬減額、③返品、④著しく低い報酬の額を定めること、⑤自己の指定する物の購入・役務の利用の強制、 ⑥金銭・役務その他の経済上の利益の提供をさせること、⑦内容変更・やり直し、の7類型が規定されており、概ね、下請法同様となっています。一方で、下請法と異なる点としては、㋐保護される業務委託の内容について、「事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること」「事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)」とされており、事実上すべての業務委託が対象となるといえると思います。また、㋑下請法においては、取引の種類毎に、委託側・受託側の資本金の額によって、下請法が適用されるか否かが決定されますが、フリーランス・事業者間取引適正化等法においては、そのような資本金の額に関する定めもありません。さらに、㋒下請法においては、いわゆる自己使用役務(発注者が自ら使用する役務)は対象外とされていますが、フリーランス・事業者間取引適正化等法においては、前記の通り、「他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。」と明記されており、発注者が自ら使用する役務も対象になります。
(2)就業環境の整備
近年の一連の働き方改革の流れを受け、委託側には、フリーランスの就業環境整備も求められています。具体的には、①広告等による募集情報の提供においては、正確かつ最新の内容に保たなければならない、フリーランスが育児介護等と両立して業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければならない、フリーランスに対するハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置を講じなければならない、業務委託(6か月以上のもの)を中途解除する場合等には、原則として、中途解除日等の30日前までに特定受託事業者に対し予告しなければならない、といった義務が課されています。
3 違反した場合
所管官庁である、公正取引委員会、中小企業庁又は厚生労働省は、委託側に対し、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができる、旨規定されています。特に、上記2(1)の禁止行為を行ったときは、下請法同様、フリーランスが不当に被った経済的損失を補填するための「勧告」が出されることになるものと思料します。
4 まとめ
法の概要は以上ですが、取引が適用対象になるのか分からない、違反しているのかどうか良く分からない、違反した場合に予想される具体的措置がわからない、などのご不明点が多いと思います。こうした事態を防ぐために、不安な契約については、ご相談ください。また、前記の通り、適用対象が非常に広いため、会社様においては、業務委託契約のうち、個人事業者に委託している契約については、一度洗い直しを行うといったことも考えられます。
法律事務所・官公庁(国土交通省)・商社内部の勤務で、約15年の経験があります。
訴訟やM&A等において、依頼者が望む解決について、十分な実績・経験があります。
単に「法律的にこうなる」として話を終わらせるのではなく、事実関係を丹念に把握・記憶して、事実に即した丁寧な主張や解決策の提案を行うことを心掛けています。