1 退職した社員が、会社と競合する事業を自ら営んだり、自社と競合する会社に就職する場合があります。退職社員が「フェアプレー」で競争するならば良いのですが、なかには退職前の顧客情報を利用して顧客を奪取するような場合もあります。
2 わが国では、憲法上も職業選択の自由・営業の自由(憲法22条1項)が認められているため、そのような競業行為も原則として自由に行うことができますが、以下の場合には「違法」となり損害賠償請求の対象となる場合があります。
3(1)競業避止契約を締結している場合
会社と従業員との間で競業避止契約を締結している場合には、原則としてその契約に従わなければなりません。しかし、競業避止契約は重大な権利の制約であるため、その有効性は厳しく判断されます。具体的には、①競業避止の必要性・合理性(企業側の利益)があるか、②在職中の地位、③地域限定の有無、④競業避止義務の期間、⑤禁止される競業の範囲、⑥代償措置の有無等から総合的に判断されます。
従って、会社が競業避止契約を従業員と締結する場合には、上記①ないし⑥の要素を十分に検討し、将来無効とされるリスクを避けることができる最低限の内容の競業避止契約を締結する必要があります。
(2)競業行為が不法行為となる場合(競業避止契約が無い場合)
個別的な競業避止契約が無い場合でも、一定の場合には不法行為となる場合があります。
平成22年3月25日の最高裁第1小法廷判決は「元従業員の競業行為が、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で雇用者の顧客を奪取したとみられるような場合等は、不法行為を構成することがあるというべきである。」と判示しています。
この枠組みで不法行為が認められるのはハードルが高いですが、例えばモデル事務所に所属していた社員が、元の会社に所属するモデル72人(約350名中)を引き抜いた事案では不法行為が認められています。
4 会社としての対応
(1)入社時に、明確、かつ、違法とされる余地の少ない競業避止契約を締結すること。
このような契約書を作成しておけば、極端な競業行為に対する抑止力となります。
なお、退社間際にこのような契約をしようとしても、社員が応じないでしょうから、早めに対応を取ることが重要です。
(2)競業はあり得るとの前提で、会社運営をすること。
社員が接することのできる情報を必要最小限にすること、競業行為があった場合には速やかに対応できる準備をしておく等が考えられます。
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