Q1:病院(あるいは施設)に長期間入院されていた方が亡くなりました。

その方には、病院で預かっていた預金等があるのですが、生前、知り合いの方が来られることもなく、どう処理すればよいかわかりません。

A1:亡くなられた方が遺言書を残していれば、それに従った処理を行うことになります。

 遺言書がない場合は、法定相続人の有無で対応が異なってきます。したがって、病院としては、まずは戸籍等による法定相続人の調査が必要となります。

・法定相続人がいる場合

この場合は、相続人に預金等を引き継ぐことになります。

相続人が複数いる場合は、特定の相続人に引き継ぐことはリスクがあるため、病院としては、引き継ぎを受ける方を相続人側で決めてもらい、その方に引き継ぐこととなります。

引き継ぎを受ける方が決まらない場合は、預かっている現金や物品についてはそのまま病院側で保管を継続し、相続人間で遺産分割が成立したときにその内容に従い引き渡すことになります(預かっている現金が多額の場合は、供託を検討します)。

なお、預貯金については、相続人全員が同意するか遺産分割が成立しないかぎりこれを引き出すことは(仮払い制度の例外はありますが)できないため、凍結手続をとったうえで、相続人に対し、病院が把握している預貯金の情報を通知すれば良いことになります。

・法定相続人がいない場合

この場合は、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てるか、供託を検討することになります。

相続財産清算人とは、平たく言えば、相続人がいない場合、身寄りの無い方の財産については国のものになるのですが、そのための手続を行う人のことをいいます。相続財産清算人が選任されれば、病院としては同人に対しすべての財産を引き継げば良いことになります。

なお、相続財産清算人の選任には一定の費用がかかりますが、亡くなった方にそのかかった費用以上の財産があれば、相続財産清算人に対してその支払いを請求することで回収することが可能です。


Q2:亡くなられた方には未払いの医療費があるのですが、病院が預かっていた現金からその支払いをうけても良いでしょうか。


A2:
亡くなった時点で、遺産は相続人あるいは国(相続財産清算人)に移転します。

したがって、勝手に支払いを受けることはできません。病院としては、相続人あるいは相続財産清算人に対して請求を行うことになります。病院としては、このような事態を防ぐために、生前に、故人と、未払の医療費については、預かっている現金等から支払うという内容の合意を交わしておく必要があります。


Q3:相続財産清算人は、相続人がいない場合、故人と一定の関係を有する人に対して財産の支払いを行うことがあると聞きました。病院がその対象となることはできますか。

A3: 特別縁故者制度というものがあります。

これは、故人と特別の関係(縁故)を有する者が家庭裁判所に申立をした場合、一定額の遺産の分与を受けることができる、というものであり、病院も該当しえます。ただし、ただ単に長年入院していた、というだけでは駄目で、特に献身的な介護を行ってきたこと、葬儀や永代供養を行ったこと、施設利用料が安かったため故人の財産が増加したこと、といった事情があれば認められる可能性はあります。

なお、もし御本人に病院に財産を残したい、という希望があることが事前にわかっているのであれば、病院としてはその内容の遺言書をあらかじめ作成してもらうようお願いしておくと良いでしょう。


今回のまとめ

・遺言書がない場合は、相続人の調査やその後の手続が複雑となる可能性がある。

・遺言書がある場合は、その後の手続がスムーズに進むので、できれば作成をお願いしておくと良い。


なお、当事務所では、病院・施設と連携した遺言書の作成や、遺言書がない場合の故人の財産の処理についても行っておりますので、ご興味があられる病院や施設の関係者の方はお気軽にお問い合わせください。